本気な大人って、カッコ悪いくらいカッコいいと思う④ 補強選手から見た都市対抗~第89回都市対抗野球大会~

山本祐香

大阪市・大阪ガスの初優勝で幕を閉じた今年の都市対抗野球大会。

都市対抗ならではの楽しみのひとつに、補強選手制度があります。都市対抗は、各地区の予選を勝ち抜いたチームが出場する大会。そして、補強選手制度とは“地区の代表となったチームがそれぞれ、同地区の予選で敗退したチームの選手の中から3人まで選手を補強できる”というエキサイティングな制度で、これにより、まさに“都市”で戦うこととなるのです。

今回は補強選手として出場した3選手にスポットを当てます。東京都は第1~第4代表まで全てのチームが、惜しくも第4代表決定戦で力尽きた明治安田生命から選手を補強しました。まずは、その中から2選手をご紹介します。そして、もうひとりは2015年に優勝投手となった日本生命の投手です。チームは15年連続、彼自身も在籍してから7年連続自チームで都市対抗に出場していましたが、今回初めて他チームの補強選手としての出場となりました。

いろいろなチームから選手が集まる選抜チームではなく、自分だけが突然他のチームの一員となって戦う。そんな環境で見えたものとは……。

 

前監督からの期待を一身に受けた投手が補強選手として初出場

 

今大会ベスト4となったJR東日本の補強は、1人だけでした。それが、明治安田生命の玉熊将一投手(北海高-法政大・2年目)です。

北海道札幌市生まれの玉熊投手、札幌新琴似リトルシニア、北海と札幌の野球エリート街道を突き進み、東京六大学リーグの法政大でもエースとして活躍しました。

ところが大学4年の春、肘に痛みを感じるようになります。原因は、肘の外側の腱鞘(けんしょう)の滑膜に炎症が起こる「滑膜炎」でした。結局、4年秋は登板することなく大学生活を終えることに。明治安田生命に進み、最初の頃は再び投げていましたが、やはり痛みがなくなることはなく内視鏡手術を受けることを決断しました。

同年秋に明治安田生命のグラウンドに伺い、当時の監督、林裕幸監督に活きの良い選手を尋ねたところ「投手は…玉熊が投げ始めていて、楽しみなんだよ!」と真っ先に名前が挙がったくらい術後の経過は順調で、玉熊投手自身も球数はそれほど多く投げずに過ごす中でも、一時期下がっていた球速がアップするなどかなりの手ごたえを感じていたそうです。

都市対抗では準々決勝の対JR西日本戦で8回から登板し、1回1/3を2安打3失点(自責1)。

試合後、玉熊投手は「7点差という楽な場面での登板でしたが、甘いところにいって打たれてしまいました。緊張も少ししていましたが、もう少ししっかり投げられたら良かったです」と初めての登板について話しました。

また、バッテリーを組んだJR東日本の渡辺和哉捕手(専修大・3年目)については「いい人です。どっしりと構えてくれるのでとても投げやすいです」、チームについては「ひとりだけの補強なので不安は大きかったけど、良くしてもらっています。しっかりしているチームという印象。ピッチャーは高卒が多く、自分より若い選手も多いのでフランクに接してくれています。技術的なことは山本ピッチングコーチ、監督からは気持ちの面でいろいろ教わっています」と充実した様子を見せていました。

筆者も北海道札幌市出身の同郷であることを話すと、「何区ですか?」とローカルな質問を投げかけてくれたりと、優しく穏やかな空気を作って会話をしてくださった玉熊投手。故障から完全復帰をとげ、またここから、さらに活躍の場を広げてくれることと思います。

 

4つのチームで都市対抗に出場した投手

 

東京都の第1代表、鷺宮製作所の補強選手として2回戦の対日本通運戦で先発したのが、明治安田生命の大久保匠投手(花咲徳栄-明治大・6年目)です。これまで、セガサミーの補強、所属している明治安田生命、JR東日本の補強と3チームで都市対抗に出場しており、今回の鷺宮製作所で4チーム目となりました。

以前「先発する前の日は緊張して全然眠れず、いつも寝不足のまま登板することになる」と言っていた大久保投手、昨夜も眠れなかったのか尋ねると「よく眠れました。相手が日本通運で、強すぎるからだと思います(笑)」とまさかの回答! 確かに、さいたま市・日本通運は昨年の準優勝チームではありますが、開き直ればぐっすり眠れるものなのですね(笑)。試合が始まってからも「相手が強すぎる…」と思いながら投球し続けていたそうです。

そんな「強すぎる相手」に対し5回2/3を投げ無失点と好投し、チームを勝利に導きました。無失点に抑えられた理由としては「ここでまっすぐが来るだろうという場面でカットボールを投げたり、同じような場面で今度はまっすぐを投げたりしました。スコアリングポジションに行ってもなんで点が入らない…と相手が思ってくれたというのもあると思います」と、投球術だけではなく精神的な攻防の部分でも有利に進めた、6年目の頼もしさを感じました。

この日の先発登板については1回戦の前から告げられていたそうで、日本通運相手にはここ2年くらい投げていなかったとのこと。大事な場面で先発を任されたこともそうですが、補強選手は第1代表から順に選ぶことができるため、第1代表に選ばれるのはやはり嬉しいことなのかも気になるところです。

「どこに選ばれても嬉しいですよ。それだけ普段から警戒してくれていると思うとね。(鷺宮製作所の印象は)明るくて、選手思いで、刺激もあって、思いやりもあるチームだと思います」

これまで3チームの補強選手となった大久保選手、チームの一員となって戦うことで手の内を明かしてしまうことになり、自チームに戻ったあとにそのチームと対戦することになると大変なのではないか、という疑問を投げかけると「もちろん、補強選手となったときはそのチームで勝つため、優勝するために持っているもの全てを出します。でも、自分のチームに戻ったら、毎年ちょっとずつ変えていくのでまた違う自分になっています」

常により良い自分になるために練習を重ねているのですから、当然ですよね。愚問をぶつけてしまいましたが「その辺は“補強慣れ”です(笑)」と冗談を言って笑ってくださいました(笑)。

緊張で眠れない日があるかと思えば、相手が強すぎると開き直ってみたり、ネガティブ思考をうまくコントロールすることで状況を好転させていく、そんなメンタルマネジメントの達人なのではと感じさせる大久保投手、さらなる進化が楽しみです。
 

2015年優勝投手のプライド

2015年の都市対抗、決勝。延長14回のマウンドには、5回途中から登板の藤井貴之投手(天理-同志社大)がいました。藤井投手擁する大阪市・日本生命と、同じ近畿代表の大阪市・大阪ガスの対戦です。大阪ガスリードの8回に日本生命が追いつき、そこから続いた投手戦。14回2死満塁から勝ち越しに成功した日本生命が死闘を制し、優勝を決めました。


今年の決勝、藤井投手は再びマウンドにいました。相手は3年前と同じ大阪ガス、しかし今回は神戸市・高砂市、三菱重工神戸・高砂の補強選手としてです。15年連続出場だった日本生命が今年は本選出場を逃し、在籍8年目の藤井投手は初めて自チーム以外での出場となりました。

決勝まで全5試合で4試合に登板。うち2試合は先発登板し、どちらも完封勝利を挙げました。決勝は1点ビハインドの8回途中から登板、惜しくも2度目の優勝投手とはなりませんでしたが、三菱重工神戸・高砂の2度目の準優勝に大きく貢献しました。

藤井投手には2回戦と準決勝の完封勝利後にお話をお聞きしました。2回戦は春日井市・王子を相手に無四球完封。藤井投手は「無四球は一番目指しているところ。シングル(ヒット)なら3本打たれても満塁、4本でも1点なので、長打が少なかったのも良かったです」と話しました。

この8年、日本選手権では何度もある先発登板が都市対抗では初めて、というとても意外なことも言っており、そのため、必然的に都市対抗の完封も初めてということでした。

準決勝の後には、対戦相手の東京都・セガサミー初芝清監督が「ベテランのピッチングに翻弄された。バッターが狙っている球をバッテリーが観察していて、狙い球を絞らせてくれなかった。うちにも欲しいくらいの観察力ですよ」と藤井投手と森山誠捕手(金沢-専修大)のバッテリーを称えていました。それを藤井投手に伝えたところ「森山がちゃんと見てくれていたからです。森山とは同期で、首を振りたいときは振ってと言われているので、気兼ねなく振っています」と、森山捕手への信頼を語っていました。


森山捕手にもお話を聞いたところ「藤井はシュートとスライダーの、横の変化で勝負する投手。右のインコースをついてみて、そこに反応がなかったので狙い球を絞れました。(藤井投手とバッテリーを組んでみて)レベルが高いですね。同期で思ったことも言えるし、シンプルに楽しいです。また組みたいと思う投手」と、笑顔を見せていました。

藤井投手のような完成型の投手が、より上を目指して変化する部分はあるのでしょうか。「去年はインコースを投げ切れていなかったので、そこを課題として取り組みました。プレートを踏む位置も去年と変わっています」と藤井投手、「マウンドに上がったらゲームセットまで」という気持ちで常に試合に臨んでいる、ということも話していました。

藤井投手の言葉には、何年も結果を残し続けている投手としてのプライドと自信を常に感じました。控えめに話す選手が多い中、藤井投手という“色”を感じる堂々とした話しっぷりに、今後も社会人野球のトップ選手としての活躍が楽しみになりました。


補強選手として選ばれたからには、チームの強さを補わなければならない。そのプレッシャーに押しつぶされそうになる選手もいる中、結果を残す選手は“本当の強さ”を持っていると感じます。

補強選手制度があることで、チームが真の「都市の代表」となる。やはり、都市対抗野球大会は、特別で魅力的な大会ですね。

次回は、社会人2年目、こちらも補強選手として都市対抗に初出場したある選手を特集します。