野球バットの異変 ~アオダモに代わる素材を求めて「北緯42度線」から~

大友良行

 地球儀を回してみると、赤道面より北に地理緯度にして42度の角度を走る緯線がある。それが「北緯42度線」だ。ヨーロッパ、地中海、アジア、太平洋、北アメリカ、大西洋を走っている。    

スペインのジローナを起点にすると、フランスのコルシカ島を抜けイタリアのローマ北部を通過してアドリア海へ出る。さらにセルビア、ブルガリア、トルコなどから黒海に直進。
続いてジョージアからロシアを通りカスピ
海を経由して、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスへの中央アジアへ。そのまま中国の河北省、吉林省を抜け白頭山のある北朝鮮へと向かう。そして日本海の奧尻島の南を通過。北海道に辿り着く。北の大地では、日髙山脈を見ながら、襟裳岬の風の館に背を押されるように太平洋に旅立つ。
 
太平洋を越えると北米はもう目の前だ。アメリカのオレゴン州に上陸。ロッキー山脈を越え、ミシガン、ヒューロン、エリー湖などの五大湖を俯瞰しながらペンシルバニア州、ニューヨーク州に到達。その後、大西洋を越えポルトガル、スペインに繋ぎ地球一周の旅が終わる。
 
このうち北海道とアメリカのニューヨーク州、ペンシルバニア州の北緯42度線上周辺に今、異変が起こっている。
 
と、言っても早とちりは禁物だ。あの有名な小説家ドス・パソスの作品「北緯42度線」とは全く違う。ここでの話は「野球バット異変」のことだ。

 

バット材に最も適するアオダモの現状

 
最近、東京ドーム、神宮球場、甲子園などに行くとイニング間のバックスクリーンに「アオダモ資源育成の会」の映像が頻繁に流れ、日本野球機構が″アオダモ植樹″を呼び掛けていることをご存じの方は多いだろう。
従来、国産バットのほとんどは北海道産のアオダモだったが、需要の高まりに反比例して、道内の天然林に自生するアオダモ資源は、急激に減少。「これではいけない」と日本野球機構が中心となり、平成14年に法人登記し、正式に特定非営利活動法人「アオダモ資源育成の会」を設立した。
野球を愛する人たちの熱意を結集、北海道の大自然に“バットの森”を造林し、世紀を超えてアオダモを育て復活させようという運動を始めている。


【アオダモ(別名トネリコ)】は、モクセイ科の温帯性広葉樹で、九州から北海道まで全国の至る所に広く分布している落葉高木。特に北海道のアオダモは、硬く、しなりがあり、耐久性に優れ、丈夫なため、バット材に最も適しているとの評判だ。北海道東海岸の寒冷地帯で湿気の多い新冠、浦河、様似の日高系と、襟裳を挟んだ本別、浦幌、音別、白糖の阿寒系の太平洋に面した道東で、雪が少なく、寒さの厳しい寒冷地が世界に誇るアオダモの産地だ。そう、その周辺が北緯42度線上にあたるのである。

 

なぜアオダモは不足するのか

 
バットの長さは106.7㌢、太さ6.6㌢以下と定められている。重さは自由だ。木製バットの原木は主に【アオダモ】と【ホワイトアッシュ】、【メイプル】の3種類がある。日本のプロ野球および社会人、大学野球などの公式戦では、1年間で20万本以上の木製バットが使用されているが、今では、その半数はホワイトアッシュやメイプルの輸入材から出来たバットになっている。
 
国内の木製バットメーカーは、以前は120社ほどあったが今では約80社に減ってしまった。その理由は国産材のアオダモ不足だ。
 
高さ15㍍直径50㌢のアオダモからは僅か8本前後のバットしか採れない上に、成長した樹木になるまで70年もかかってしまう。寒冷地産であればあるほど反発力と弾力性が優れるため、バット材として最良とされているのは北海道産のアオダモである。しかし、北海道の森林ではアオダモを他の樹種と混生して分散生育しているため、どうしても搬出コストが高くかかり、そのシェアは30%程度にとどまっている。にもかかわらず、主な生産地の計画伐採をしていなかったため、今アオダモはピンチを迎えている。
 
里山に植林し良質なバット素材の育成ができれば、安価で安定した供給が可能になるはずだが、現状では、優れた性質をもつ木製バットを長期的に安定して供給するには難しい状況にある。
 


注目される北緯42度線

 
そんな折、北米の北緯42度線周辺が注目されだした。地球温暖化による気候変動で植生が北へ北へと移動。その影響もありカナダから吹いてくる偏西風に乗った冷たい風が五大湖を吹き抜けてくるニューヨーク州とペンシルバニア州が、北海道のアオダモに代わるホワイトアッシュとメイプルの産地として脚光を浴びている。
 
「赤道直下の暖かい地域なら大きく育った木は多くあるが、バットにしたら1.4㌔~2㌔となり重すぎて、選手は使えない。一方、寒さの中で育った木は、成長度が遅く、大きく育たないが木の成分が詰まっているため硬くて、反発力がある」と関係者は言う。
 
バットに適している900㌘前後の重さで硬く
折れにくい木はバリー・ボンズ選手が本塁打を量産した【ハードメイプル】だ。デレック・ジーター選手も愛用していた。材質が重硬で、衝撃に対して抵抗力が大きく、摩擦性に強い。欠点は芯を外すとシビレがひどいこと。蛇足だが、メイプルの幹から採れた樹液がメイプルシロップだ。


 
イチロー選手をはじめメジャーリーガーの多くが使っている【ホワイトアッシュ】は、適度に硬く重量があり、耐久性に優れ加工しやすく、衝撃や摩擦にも強い。アオダモよりしなりはないが、反発力は十分だ。樹高24~37㍍胸高直径1.5㍍前後で約10本近くのバットが採れる。松井秀喜選手も使っていた。しかし最近では、地球温暖化で害虫のアオナガタマムシが発生。ホワイトアッシュの原木被害が続出し、先行きが心配されている。
 
 野球に欠かせない道具であるバットの未来は、「北緯42度線」にかかっている。降りかかる課題をクリアして、資源の育成がさらに活発化することを期待したい。


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大友良行
元大手新聞社の報道カメラマンで現フォトジャーナリスト。ニュースの最前線で見てきた人々の喜怒哀楽を行間の端端、写真の隅々に秘められればと願う。大リーグをはじめ、W杯や国内外のサッカーなども取材。現在は、幅広いネットワークを持つ高校・大学・社会人野球がメイン。著書に「CMタイムの逆襲(東急エージェンシー)」「野球監督の仕事(共著・成美堂)」などがある。