来年も目が離せない! 全国大会初出場で旋風を巻き起こした宮崎産業経営大

大友良行

今年の大学野球界で、最も注目を浴びたのが九州地区大学連盟(南部)から6月の第67回全日本大学野球選手権大会に出場した「宮崎産業経営大(以下、産経大)」だ。初出場でいきなりベスト8まで勝ち上がり「聞いたことのない大学なのに、どうして?」とファンをはじめ関係者からも驚きの声があがったことは、まだ記憶に新しい出来事だ。

 


当時の躍進ぶりを振り返りつつ、地方大学野球部の実情と、九州大学野球の組織図などを調べてみた。    

 
 

全国デビューで平常心を保てた、その秘策とは!?

 

産経大の全国デビュー初戦は、大会2日目の第3試合、東京ドームだった。「へー、これが人工芝か。プロと比べると観客が少ないね」とグラウンドに出た選手たちは興奮気味の中にもどこか上から目線で多少の余裕さえ感じられた。
「何しろ田舎から出てきたので緊張し過ぎるじゃないかと思い、東京入りした日に、ドームで超満員の巨人対楽天の試合を観戦させておきました。あがって大敗しないために球場の雰囲気を前もって見せておく必要があると思ったからです」と三輪正和監督。どうやらこの事前対策が的中したようだ。
 
「試合前のノックでも選手たちの声は出ていたし、いつものようにボールを追いかけて落ちつきを見せていたので、これはいけるかなと思った。むしろ私のほうが空振りしたら格好わるいなと緊張しましたよ」と笑う。
 
夢にまで見た大学選手権初戦の相手は、常連校の東京新大学連盟の創価大。大方の予想は産経大の下手したらコールド負け。当然だ。ところが何と4回終了まで0対0。そこで5回にDHの寺園選手が先制2ラン。さらに8回には、スクイズと2番境田選手の適時打で3点を追加、5対0と引き離した。その裏、2点を返されるものの興梠選手の適時打で1点を加え6対2で快勝。

 

(写真は先制2ランを打った寺園選手)

 
 



「正直なところ、まさか勝つとは思っていなかったです。監督の私でさえ、そう思っていましたから。みんなが良い場面で打ってくれ、普段以上の成果が出ました。特にこの試合はエースの3年生杉尾の力投につきます。見事なピッチングでした」。
最後の1イニングだけリリーフを仰いだものの、8回を投げ4被安打10奪三振の素晴らしい結果を残した。
 
翌大会3日目も東京ドーム。こちらも選手権ですっかりお馴染みになった北陸大学野球連盟の福井工業大が相手。想定外の初戦突破で勢いに乗る産経大は、1回表に4番新垣選手の適時打で先制。3回には境田選手のソロ。8回に1点を返されるも9回に興梠選手がダメ押しの三塁打で1点を追加、勝負を決定つけた。この試合、エースの杉尾投手を温存。伊達、田中投手の二人で10安打を打たれたものの1四球で要所を締め、味方打線もたった6安打で効率的に得点。準々決勝進出を決めた。

 

 

準々決勝は、地方大学選手にとっての憧れの舞台、神宮球場。相手校は同じ福岡六大学リーグの九州産業大学。お互い知らない間柄でもないが、一日休ませたエースの杉尾投手をマウンドに送り出し、必勝を期した。しかし、1回、産経大にエラーが出て九産大が先制。3回にはプロ注目の岩城選手の適時打を浴び2対0。5回にも犠飛で1点を追加され計3対0で惜敗。杉尾投手も7被安打、5奪三振、無四球と好投したものの味方打線が4安打と沈黙。ここでベスト4の夢は破れ去った。
 
初出場でベスト8。一躍全国へ名乗り出た産経大。「この成績をだれが予想したでしょうか。一番ビックリしているのはわたしです。まさかここまでやってくれるとは」と感無量の三輪監督だった。
 

 

地方大学が台頭、変化する大学野球

 

毎年6月に開催される大学選手権は全国各地区から春のリーグ戦を終え、それぞれの代表枠を勝ち取った27校が参加。神宮球場と東京ドームでトーナメント戦を繰り広げ、「大学日本一」を決める全国大会だ。
第1回大会は1952年に8校が参加。東京六大学の慶大が優勝。以後、神宮球場を本拠地とする東京六大学リーグと東都大学リーグが圧倒的な強さで2トップを形成。それに追いつけ追い越せと首都大学リーグの東海大、関西学生リーグの近畿大、仙台六大学の東北福祉大が追いかけるという勢力図がなんとなく出来上がっていたのが実情だった。
 
しかし、平成に入ると地方大学が台頭。2003年(平成15年)九州地区代表の日本文理大、2006年(平成18年)に大阪体育大、2013年(平成25年)に関甲新学生地区の上武大が全国制覇を果たした。つい最近では2016年(平成28年)に巨人の吉川尚輝選手を軸に勝ち上がった東海地区代表の中京学院大が優勝している。
 
何故地方大学が強くなったか。少子化時代の影響で、各大学は学生数確保に力を注いでいる。そのためには、大学名をアピールしなくてはならない。そこで知名度アップの方法として、いくつかのスポーツ競技に力を入れ広報活動を展開。中でも人気のある野球に本腰で取り組むようになり、大学選手権と秋の神宮大会の2大全国大会出場で名前をアピールし、学生数確保の手段の一つに数えているようだ。
 
学生側も、東京など首都圏の伝統校を避け、出場機会の多い地方大学への進学を選ぶ能力の高い選手たちが増えてきている。力のある選手が入ってくれば全体的なチーム力も向上するのは必然だ。現在プロ野球で活躍している広島の菊池涼介(中京学院大)、大瀬良大地(九州共立大)、オリックスの安達了一(上武大)、西武の秋山翔吾(八戸大)、楽天の岸孝之(東北学院大)選手らの活躍を見ても、大学選手権に出場した、していないにかかわらず、いわゆる地方大学がレベルアップしているのは間違いない。
 
今回産経大が大学選手権に出場できたのは、九州の大学野球が一部組織換えされたことが大きい。九州の大学野球も御多分に漏れず、激戦区の一つとなっている。九州は従来、福岡大、九州国際大などが所属する「九州六大学野球連盟」、九州共立大と九州産業大学が頂上争いをする「福岡六大学野球連盟」、そして日本文理大、東海大九州、沖縄国際大などが群雄割拠する「九州地区大学野球連盟」の3ブロックに分けられていた。この3連盟で大学野球の全国大会である「全日本大学野球選手権大会」と「明治神宮大会」出場を長い間、競い合ってきた。しかしその一つである九州地区大学野球連盟が31校になり、これ以上増えると地理的な問題を含め大会運営が難しくなるということで、この九州地区を九州東海大、第一工業大、沖縄国際大が中心の18校で「九州地区大学野球連盟南部」。日本文理大、別府大、大分大を擁する13校の「九州地区大学野球連盟北部」に2分割。結果3年前から九州は4リーグに制定され、大学選手権に4校が出場できるようになった。
 
産経大にとっては、過去何度も苦渋を味わわされてきた強敵日本文理大が北部に属することになり、目の上のたん瘤が取れた状態。と言っても南北に分かれてからの大学選手権南部代表は、一昨年が第一工業大、昨年が東海大九州と産経大にとって厳しい状態は続いていた。
 
この南部リーグは、それぞれ沖縄、熊本、鹿児島、宮崎の各県でリーグ戦総当たりを行い、勝ちあがったチームがその年の当番県に集まって4チームでリーグ戦を展開、南部代表を決めるというわけだ。宮崎県には、宮崎大、宮崎公立大、南九州大、九州保健福祉大が参加している。産経大は、県内では常に1位。ここ数年負けはない。

 

プロ注目、エース杉尾剛史の存在

 

その新制度になって3年目に、産経大がやっと大学選手権出場を勝ち獲った。
「選手たちの全国大会に出場したいという気持ちが強まり、トレーナーと話し合い、冬のトレーニングで相手に負けないような体づくりをしました。やり方を変えたら体つきが明らかに変わってきました。また、4年生が中心になって、こういう練習をやりたい、練習時間が短すぎるから朝練もやりたいなどと申し込んできました。やる気を前面に出してきたことが全国大会に結びつきました」と三輪監督は言う。
 
今までは、甲子園球児が入学してきても下位打者や控え選手ばかりだった。そこそこの選手がいるにはいたが「どうせ全国へは行けない」と頭から決めつけていた。しかし、2015年宮崎日大高のエースとして夏の甲子園大会に出場した杉尾剛史投手が入ってきてから「自分たちの代で行くんだ」という意識が高まってきたことが大きな理由だ。杉尾投手は、甲子園で長野県の上田西高戦に先発したものの、1回途中で降板。以後、投手と一塁手を交互に何度もマウンドを昇り降り。落ち着いた投球ができず、結果3対0で敗退。
 
投手としてチームから信頼されなかった悔しさもあり、甲子園マウンドでは、納得できなかった惨めな思い出だけが残ったという。
 
そのため「大学では、どうしても地元宮崎の代表として、もう一度全国大会に出たい」という強い気持ちを持って産経大の門を叩き3年生の今エースとして成長、屋台骨を支えている。

 

(写真は三輪監督と杉尾投手)

 


 

「甲子園では、勝たないといけないというプレッシャーを感じて失敗したので、その反省から東京ドームと神宮のマウンドでは緊張することなく楽に投げられたのが好結果を生んだと思います。ストレートとスライダーを交互に使い分けたコンビネーションでピッチングを組み立てることができました。目標は来年の大学選手権でベスト4以上を狙うこと。さらに来秋のドラフトでプロ入りすることです」。
身長173㌢、78㌔と決して大きくはないがガッチリした体から147㌔の速球を投げ込む快速右腕だ。当然スカウトも放ってはおかないだろう。  
同校を卒業して社会人やプロで本格的に野球を続けたOBはまだ誰もいない。それだけに周囲からの期待は大きい。

 
 

限られた環境でやる野球、監督の思い

 

産経大には、特待制度がない。専用グラウンドもなく、系列の鵬翔高校のグラウンドを借りて練習している。合宿所もないので、選手たちはアパートか自宅通いがほとんどだ。
 
「大学生活をするにはお金がかかるので、選手たちには学費や家賃の補助にアルバイトを薦めています。チェーン店の薬局、すし屋、コンビニ、ガソリンスタンド、居酒屋などです。お金を稼ぐのがいかに大変なことかをわかってもらいたいし、親のありがたみを感じ取って欲しいからです。就職時にも役立つと思います。おかげさまで就職も地元中心で教員、警察官、消防士、JA、県経済連などにお世話になっています。全国大会に行ったメンバーの中からも県の上級職員に受かった子も出ています。嬉しい限りです」と55歳の三輪正和監督。選手たちにノックをするかたわら、同大の法学部准教授としてスポーツ指導論を教えている。 
地元の日向学院から立教大学に進学、神宮で活躍。23歳から新設の当大学で部員集めに学内外を奔走して野球部を作り、監督兼教員に就任。今年で監督歴32年を迎える。
 
「1年目は中学ボーイズとの練習試合でした。他大学は勿論のこと、どこの高校も相手にしてくれなかったので。その年の6月に宮崎大にお願いしたがボロ負け。途中でコールド負けを申し入れたが相手から『気にしないで』と慰められました。そんなこともありましたが、2年目に念願の初勝利をあげられました」。
 
4学年揃った4年目に、鹿屋体育大と延長18回引き分け。再試合で1対0と破り、九州地区でベスト4入り。そのころから“野球”になりはじめたという。
 
先述の通り、大学野球には全国大会が2大会ある。春季は全国27校、九州地区連盟からは南北の優勝校がそれぞれ大学選手権に出場できるが、毎年11月に開催される神宮大会に参加できるのは、さらに行われる地区大会を勝ち抜いてきた11校だけと厳しい状況だ。
 
九州地区連盟南北順位決定戦で1、2、3位になったチームは、10月20日から九州3リーグの上位校でトーナメント戦を行う「ユニバーシアード記念九州大会」へ、九州地区大学野球連盟代表として参戦。神宮大会の切符を手にすることができるのは、トーナメント戦を勝ち上がり優勝したチームのみだ。連戦となるデメリットを考えてもかなり厳しい戦いとなる。産経大は九州地区連盟南部で2位となったが、南北順位決定戦で北部2位の西日本工大に敗れ4位となり、今年の神宮大会に通じる道は閉ざされてしまった。 
 
 「私たちにとって、神宮大会は、連戦になるのでどうしても投手の数がたりません。それに大学選手権で頑張ってくれた4年生たちが夏を前に引退してしまいました。戦力ダウンです。他大学の九州の大学生たちも、今後も野球を続ける選手以外は、ほとんどは春が終わった時点で引退してしまいます。もちろん練習などは後輩のために手伝ってくれるのですが、残された大学生活を就職活動に充てます」と三輪監督は言う。そしてこう続けた。
 
「私がいつも彼らに言い聞かせているのは『私の野球は全国大会とか、プロ野球とかそんなことではない。野球技術の指導は細かく言うけど、4年間君らを預かって良いところへ就職するための一つの方法が野球なんだ』ということです。春季はたまたま全国へ行けたのであって、そのスタンスは変えません。練習時間も8~9時間だとダラダラと長くなってしまうので、普段は4時間です」。
 
ちなみに今年の大学選手権で同大は「特別賞」を受賞した。三輪監督は「初出場で2勝したことも含めベンチの雰囲気、選手の挨拶、インタビューの対応、応援姿勢など、野球の結果だけでなく総合的な評価を受けたことを誇りに思え」と選手たちに言い聞かせている。

 

 

プロ注目選手を抱え、全国デビューを果たした今も、そのスタンスは変えない。そんな宮崎産業経営大が来年どんなチームとなっているのか。ぜひ、注目していただきたい。


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大友良行
元大手新聞社の報道カメラマンで現フォトジャーナリスト。取材の最前線で見てきた人々の喜怒哀楽を行間の端端、写真の隅々に秘められればと願う。W杯をはじめとした海外サッカーやJリーグなども永く取材。本来の野球は、メジャーリーグを経て、現在は野球界に幅広いネットワークを持ち、高校・大学・社会人がメイン。著書に「CMタイムの逆襲(東急エージェンシー)」「野球監督の仕事(共著・成美堂)」などがある。