クリケットとは? その魅力と日本の未来を照らす「ワイヴァーンズクリケットクラブ」の今後の目標 

山本祐香

総合公園のひとつの広場で、ある競技の練習が行われていました。その競技の名は“クリケット”。そこにいたのは、早稲田大学を中心に、様々な大学の学生が在籍しているクリケットチーム『ワイヴァーンズクリケットクラブ』(通称:ワイバ)の選手たちです。



そもそも、みなさんは“クリケット”という競技をご存知でしょうか。「野球の原型と言われている競技」だということは結構知られており、最近では元プロ野球選手の木村昇吾さんが転向したことで話題にもなったため名前を知っている人は多いと思いますが、胸を張って「詳しく説明できます!」と言える人は少ないのではないでしょうか。


日本国内ではまだまだメジャーとは言えないクリケット、しかし世界に目を向けると、なんと競技人口第2位を誇るスポーツなのです。そんな競技を知らないなんて、なんだかもったいないと思いませんか?


ということで、筆者も一からクリケットを学ぼうとまずは文字でルールを確認してみたのですが……ん? よくわらかない(笑)。なんとなくはわかるんです。ただ、複雑すぎてはっきり理解したと言えるところまで到達できません。そこで、やはり直接見るしかない! とこの日取材に訪れたのです。

 

 

クリケットを始めたきっかけとは?

 

練習場所に着いたところで、さっそく練習風景を見ながら、ワイバのみなさんにルールを説明してもらいます。文字を読むよりはわかってきた気がしますが、やはりいまいち理解したと言えるところまではいきません。これは私の理解力が足りないのか、それとも野球と同じで複雑なルールを理解するためには試合を観ながらが良いのか。
 

それを確かめるために、ワイバのみなさんはどのようなきっかけでクリケットを始めたのか、そしてどのようにルールを覚えていったのかを訊いてみました。


まずは、女子日本代表メンバーでもある遠藤理央さん(早稲田大4年)と北山明里さん(実践女子大3年)です。遠藤さんは152cm、北山さんは151cmとふたりともかなり小柄であることにビックリ。体の大きさは競技に関係しないのか訊いてみると、高身長の方が有利ではあるけれど、小柄でも頑張れば日本代表に入ることが可能な競技とのことです。


(左)遠藤理央さん(右)北山明里さん


ちなみに、ワイバは男女の大学生チームだけではなく、社会人チームもあり、日本代表は全国の学生、社会人どちらからも選ばれる混合チームです。



遠藤さん「元々運動は好きで、ソフトテニスを10年ほどやっていました。中学のときには全国大会に出ました。早稲田大学に入学したときにこのチームから勧誘を受け体験してみたところ、先輩たちが優しく、センスがあると褒めてくれたのでその気になって始めました(笑)」
 

北山さん「サークルの先輩が知人で紹介してもらいました。野球とソフトボールをずっとやっていたので、ストレートに同じ競技をやるよりは経験が生きる他の競技をやってみたいと思ったんです」



ふたりとも他のスポーツの経験が豊富、また新しいことにチャレンジする好奇心を持ち合わせていたことも共通しているようです。女子日本代表メンバーと聞いて、小さな頃からクリケットに慣れ親しんでいたと思いきや、大学生から始めたのですね。



遠藤さん「始めてからすぐ試合に出ていたので、3,4カ月練習や試合をしていく中でこなせるくらいにはなりましたね」
 

北山さん「最初の試合で先輩たちを見て、こんな感じなんだとなんとなく思い、5,6月頃の日本代表の試合で『クリケットってこういうものなのか』と本当に理解しました」


遠藤さん「そうなんです。日本代表で国籍の違う相手と戦うことで、こういうボールを投げてきてこういう状況だとこういうプレーをするんだというのを経験して、本当にクリケットがわかるというのはありましたね」



実際に競技をやっているふたりでも、きちんとルールを理解したのは試合の中でということなので、筆者が理解できないのも無理はないことがわかりホッとしました(笑)。
 

 

知れば知るほど面白くなる!

 

 

先に述べたように、文字を並べ続けて完全に理解していただくのは難しと思うので、“試合を観る前に最低限知っておいた方がいいクリケットのルール”を18個に絞って説明します。絞りに絞ったのですが、18個になってしまいました(笑)。


 

<主な道具>
ボール(野球の硬式球くらいの硬さ)

バット(野球のバットより重く平べったい)

グローブ(キーパーが使う)

ウィケット(“Ⅲ”の形の的のようなものでこれにボールが当たったり触れたりして倒れるとアウトになる)



<競技場>
半径70mのフィールドの真ん中にウィケットを20.12mの距離を取り向かい合わせに設置



<選手の役割>
ボウラー(野球でいう投手)

ウィケットキーパー(野球でいう捕手)

フィールダー(守備をする人)

バッツマン(打者、2人いる[打って走る役割=ストライカー][走るだけの役割=ノンストライカー])


<ルール>
①11対11でやる競技

②守備をするチームは、ボウラー(1人)が片側のウィケットの近く、ウィケットキーパー(1人)が逆側のウィケットの近く、フィールダー(9人)が散らばって配置につく

③攻撃をするチームは、バッツマン2人のうち“ストライカー”がウィケットキーパーがいる方のウィケットの前に立ってバッティングをし、“ノンストライカー”は逆側のウィケットの近くに立つ

④360度どこに打ってもいいためフィールダーもバッツマンの打撃傾向に合わせて360度のどこかに配置

⑤なんと、フィールダーは素手で打球を処理する!

⑥ウィケットの手前に線が引いてあり(クリース)その線から出ないように投げれば、ボウラーは助走をつけて良い

⑦ボウラーは投げるときに肘を曲げてはならない

⑧バウンドをさせなければならない決まりはないがワンバウンドが一番打ちにくいということで、基本ワンバウンド投球


投げる瞬間に肘を伸ばす。地面に置いてある緑のものがウィケット


⑨6球を1オーバーと呼び、1オーバー投げたらボウラーは交代

⑩1試合50オーバー(300球)が国際基準だが、国内の試合は20オーバー(120球)で行われることが多い

⑪50オーバーだと試合時間が7時間を超えることもあり、20オーバーだと3時間程度

⑫最も基本的な点の取り方は、ストライカーが打ちボールが転がっている間に反対側のウィケットの手前に引いてある線(クリース)を越え、同時にノンストライカーも反対側に走り入れ替わった状態で1点

⑬他にも野球でいうホームランなど、様々な点の取り方があるが難しくなるので割愛

⑭アウトにする方法もいくつかあり、ボウラーがバッツマンに打たれずに直接ウィケットにボールを当てて倒すなど

⑮打球をノーバウンドで捕球(野球でいうフライ)してもアウト、あとは割愛

⑯バッツマンは10人が順番に打席に立ち、一度アウトになった人はもう立てないが、アウトにならない限り立ち続けることができる

⑰ボウラーが決められた球数(オーバー)を消費するか、バッツマン10人全員がアウトになったら攻守交替

⑱国際基準で試合をするときは長時間に及ぶため、片方のチームの攻撃が終わるとティータイム、またはランチタイムがある



イギリス発祥のスポーツであるクリケット、試合中にティーしちゃうなんてさすが紳士のスポーツと思う反面、フィールダーは硬いボールを素手で扱うなど荒々しいところも。遠藤さんと北山さんに、クリケットの魅力はどこにあるのか訊いてみました。

 

北山さん「クリケットはアウトになるまでずっと打ち続けることができるんですよね。1球でアウトになってしまうこともありますが、調子が良ければいっぱい打てるので、その間主人公でいられるんです」


遠藤さん「異文化交流ができるところもいいところです。日本でちょっとでもクリケットをやっていれば、外国人の友達もできるんですよ」



さすが、競技人口世界第2位、国外の人にとってはメジャーなスポーツなのに日本では競技者になかなか遭遇しないため、練習していたりバットを持って歩いていると外国人から話しかけられ交流が始まるようです。この点については、ワイバの男子キャプテン池田孝太さん(早稲田大3年)も言っていました。

 

池田さん「海外では有名なスポーツなのでコミュニケーションツールとしてもいいですよね。日本でクリケットバックを持っているだけで、電車の中で外国人から話しかけられたりします。多いときで1週間に3人とFACEBOOKを交換しましたから」

 

池田さんは、学生のみで結成される日本代表のメンバーでワイバの元気印です。大学でクリケットを始めるまでは、中学でハンドボール、小・高校で野球をやっていました。早稲田大学のラップサークルに入ろうと受験をしたそうですが、ワイバに勧誘されて練習体験をしたときに先輩方にヨイショされてそのまま続けることに(笑)。


(左)池田孝太さん (右)松村類さん


副キャプテンの松村類さん(一橋大3年)は男子日本代表メンバーで、なんとクリケット発祥の地であるイギリス生まれ。当然クリケットは馴染みのあるスポーツで、10歳で日本に戻ってからは、友達に誘われて千葉県にある15歳以下のチームでプレーをしていたそうです。松村さんの思うクリケットの面白さも訊いてみました。



松村さん「個人競技と団体競技の両方の良さが入っていると思います。11人でやるから守備など話し合うのですが、監督は出てこないんですね。キャプテンがみんなに指示してみんなで話し合って、という部分は団体競技の良さで、打つときは1対1なのでそこは個人競技なのでいいかなと思います」



監督は何もしないのですか?



松村さん「ここのチームには監督はいません。日本代表のときは一応いますけど、指示はキャプテンが出しますし話し合うのは選手だけです。あと、すぐ上手くなる…とまでは言いづらいですが、大学に入ってから始めた人でも一緒にやっていくと成長が早いのもこの競技の良いところだと思います」



実際練習を見ていると、涌田裕介さん(早稲田大1年)はまだ1年生なのに豪速球を投げており、先輩方からの期待も大きいです。ここまで練習を見てきて、バットや防具など個人で揃えなければならないもの、ボールやウィケットなどチームで必要なものなどがあるとわかりましたが、初心者には値段の予想がつきません。



バッツマンはこのような装備をする


北山さん「私のバットはオーダーで作ったのですが、4万円くらいでした。日本には買えるところがないので、すべて海外から取り寄せなければなりません」

池田さん「バットはグレードが1から5まであり、1の方が質が良く高価で素材はヤナギです。質が良い方がよく飛ぶんですよね。ボールも安いので1個1500円くらい、高いと3000円くらいします」

遠藤さん「クリケットをしているとき以外はバイトをしているのですが、全部遠征費と用具代で消えていきますね。日本代表に入ることで、さらに遠征費がかかってしまいます」


日本にクリケット用品を扱うショップがなく、海外から取り寄せなければならない。そして、ワイバでの活動だけではなく日本代表でも遠征費などは自費という状態でも、彼らはクリケットに魅せられて日々を捧げているのです。


ワイヴァーンズクリケットクラブ代表の岩崎純也さん(早稲田大3年)は、試合や練習で指示をするキャプテンとは別に、マネージャーのような業務もこなす


最近はマイナー競技だからこそテレビ番組で取り上げられたり、選手が子供たちにクリケットを教えに行くなどの普及活動もしているそうですが、まだまだ試合観戦に訪れる人や競技人口の増加は多くない状況です。


一度練習を見ただけでムクムクとクリケットへの興味が沸き上がってきた筆者のように、みなさんもちょっとしたきっかけでクリケットの面白さに気づくはず。9月23日には昭島市陸上競技場で行われる「全日本学生クリケット選手権」の決勝へ、男子共に出場するワイヴァーンズクリケットクラブ。もっとたくさんの人にクリケットの魅力を知ってもらいたい、という選手たちの雄姿をぜひ観に行ってみてください!


そして、クリケット体験会にも参加できる、こちらのプロジェクトで彼らの活動を支えてみませんか?
https://www.spportunity.com/tokyo/team/275/detail/



「野球にもいろいろな技術を持ったピッチャーがいるように、クリケットにも特別な投球技術を持った選手がいる」「キャッチャーというポジションの楽しさ」など、まだまだあるクリケットの魅力は、また次回!

山本祐香
好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいとふと思い、OLを辞め北海道から上京。「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間120試合以上観戦し観戦記録をつける日々。最近の楽しみは、大学野球で逸材を見つける“仮想スカウティング”。面白いのに日の当たりづらいリーグを太陽の下に引っ張り出すべく、世の中に向けて発信をしていく。